- 「立ち絵をお願いします」だけでは依頼が成立しない。静止画か、動かしてモデルにするか、3Dの資料かで作業の中身がまったく変わる。
- 最初の連絡で埋める項目は、用途・キャラクター設定・差分・レイヤー分けの要否・納期・予算・権利の範囲。
- 決まっていない項目は空欄ではなく「未定」と書く。空欄より何倍も親切に伝わる。
- 表情差分は点数からではなく「自分の配信で頻繁に起きること」から逆算する。雑談中心なら笑顔と平常の幅、ゲーム配信なら驚き・焦り・悔しさ。
- 動かす前提なら、誰がレイヤー分けの基準を決めるのかをはっきりさせる。絵師とモデラーが別人だと納品後の描き直しが起きる。
- 対価を払っても著作権が自動的に発注側へ移るわけではない。多くは作家が権利を持ったまま、決められた範囲で使う形。
- 後戻りが少ないのはモデラーを先に押さえる進め方。分け方の指定を受け取ってから絵を発注すれば描き直しが起きない。
Vtuberを始めるとき、あるいは既にいるキャラクターの絵を新しくするとき、最初に立ちはだかるのが「何をどう頼めばいいのか分からない」という壁です。イラストの依頼は経験があっても、Vtuberの絵は勝手が違います。
違いは一点に集約されます。その絵は、飾るためではなく動かすために描かれるということです。動かす前提の絵は、完成したときに一枚の画として成立しているだけでは足りません。腕の下に胴体が描かれているか、前髪の裏に額があるか——画面には映らない部分まで用意されている必要があります。
なぜそういう設計になったのかという背景は立ち絵という発明について書いた記事に譲ります。ここでは発注する側が事前に決めておくことだけを、話を持ちかける順番どおりに並べます。
「立ち絵を一枚」では依頼が成立しない
絵師に「立ち絵をお願いします」とだけ伝えると、ほぼ確実に質問が返ってきます。困らせているのではなく、その一言では受けられるかどうかの判断がつかないからです。
同じ「立ち絵一枚」でも、静止画としてそのまま配信画面に置くのか、パーツを動かしてモデルにするのか、3Dの資料として使うのかで、描く作業の中身がまったく変わります。静止画なら見えている部分だけを仕上げればよいのに対し、動かす前提なら隠れている部分まで描き、パーツごとに分けて納品することになる。同じ絵柄でも手間の量が変わります。
しかも、その判断に必要な情報は、ほとんどが発注側の頭のなかにしかありません。どんな配信をするのか、いつ始めたいのか、将来グッズを作る可能性はあるのか。絵師の側だけで決められることは、実はほとんどないのです。
声をかける前に固めておく項目
最初の連絡に入れておくと、やりとりの往復が目に見えて減ります。決まっていない項目は「未定」と書けば大丈夫です。空欄より「未定」のほうが、相手には何倍も親切に伝わります。
| 項目 | 何を伝えるか | 決まっていないと起きること |
|---|---|---|
| 用途 | 静止画として使うのか、動かしてモデルにするのか、3Dも視野に入れるのか | 描き方そのものが決められず、見積もりが出せない |
| キャラクターの設定 | 性別・年齢感・性格・世界観・こだわりたい記号(髪型、瞳、小物など) | ラフの方向性が定まらず、やり直しが増える |
| デザインの決定権 | こちらの案をもとに描くのか、デザインから任せるのか | 意図せず「お任せ」になり、期待とずれる |
| 差分の範囲 | 表情差分をどこまで用意するか、衣装違いは必要か | あとから追加になり、納期も条件も組み直しになる |
| モデリングの担当 | 絵師にモデリングまで頼むのか、別のモデラーに渡すのか | 納品データの形式が決まらない |
| 活動の形 | 個人か、事務所所属か、企業の案件か | 権利の扱いが後出しになり、話が振り出しに戻る |
| 希望の時期 | デビュー予定日、あるいは「急がない」こと | スケジュールを押さえられない |
最初の一通の書き方そのものに迷う場合は、依頼メールの例文とテンプレートに汎用の型をまとめてあります。上の表はそこに足す、Vtuber固有の項目だと思ってください。
表情差分は「何点か」ではなく「配信で何が起きるか」から考える
差分の点数を先に決めようとすると、だいたい迷子になります。多ければいいというものではなく、使わない差分は作っても切り替える機会がありません。考える順番は逆で、自分の配信で頻繁に起きることは何かから入ります。
- 雑談が中心なら、笑顔と平常の行き来がいちばん多い。細かい感情より、口の開き方と目の細め方の幅が効く
- ゲーム配信なら、驚き・焦り・悔しさといった振れ幅の大きい表情が要る
- 歌を配信するなら、口の形と、目を閉じた状態の見栄えが重要になる
- コラボが多いなら、正面以外の角度や、視線を横へ振った状態が欲しくなる
静止画で運用する場合、差分は切り替えて使う一枚絵です。動かす前提のモデルにする場合は少し事情が変わり、目や口は設定した範囲で動かせるので、静止画ほど多くの差分を絵として用意しなくても済むことがあります。代わりに、動かすためのパーツ分けが必要になる。どちらの前提で進めるかを先に決めておくと、無駄な発注をせずに済みます。
衣装違いについては、最初から全部そろえようとしないほうが現実的です。活動を始めてから「こういう場面で困った」と分かってから足すほうが、使われない衣装を抱えるより無駄がありません。
動かす前提なら、レイヤー分けの指定を先に渡す
動かす前提の絵では、完成データの中身が仕上がりと同じくらい重要になります。見た目が理想どおりでも、一枚に統合されたデータではモデルになりません。
ここで大事なのは、誰がレイヤー分けの基準を決めるかをはっきりさせることです。絵師とモデラーが別の人の場合、基準がないまま進むと、納品後にモデラーから修正依頼が飛び、絵師が描き直す——という一往復が発生します。誰も悪くないのに全員が損をする、典型的なつまずきです。
| 段取り | やること | 確認する言葉 |
|---|---|---|
| ①モデラーを先に決める | 絵の発注より前か、少なくとも同時に相談する | モデリングは誰にお願いしますか |
| ②分け方の指定をもらう | モデラーから分割の指示や仕様を出してもらう | レイヤー分けの指定をいただけますか |
| ③絵師に指定を渡す | 依頼の段階で仕様を共有する | この指定で描いていただけますか |
| ④中間で見てもらう | 線画や着彩の段階でモデラーに一度確認してもらう | この状態で問題ないか見ていただけますか |
| ⑤形式を確認して納品 | ファイル形式、解像度、レイヤー名の付け方をそろえる | 納品形式はどうしますか |
絵師がモデリングまで一貫して請け負っている場合、この工程は相手のなかで完結します。分業より手間が少ないぶん、進行は楽になります。一方で、絵の作風とモデルの動きの好みを別々に選びたいなら分業のほうが自由が利く。どちらが優れているという話ではなく、何を優先するかで選ぶものだと考えてください。
権利の話は、始める前にしておくほうが安い
Vtuberの絵は、一度きりで終わりません。配信に出るのはもちろん、サムネイル、SNSのアイコン、活動が続けばグッズや企業案件にも使いたくなります。そのたびに「これは使っていいのか」と確認するのは、双方にとって負担です。
イラストの取引では、対価を払っても著作権が自動的に発注側へ移るわけではありません。多くの場合、作家が権利を持ったまま、決められた範囲で使う許可を受け取る形になります。詳しくは利用許諾と著作権譲渡のちがいにまとめました。ここでは、Vtuberの活動で問題になりやすい項目だけ挙げます。
| 場面 | 先に決めておくこと |
|---|---|
| 配信・SNSでの使用 | アイコン、ヘッダー、サムネイル、配信画面での使用が含まれるか |
| 収益化 | 広告収入や投げ銭がある配信で使うことを想定しているか |
| グッズ・物販 | 将来グッズにする可能性があるか。そのときの扱いをどう決めるか |
| 企業案件・広告 | 第三者の商品やサービスの宣伝に登場する場合の扱い |
| 改変 | 差分の追加や描き直しを、別の人に頼んでよいか |
| ファンアート | 視聴者が描いた二次創作をどう扱うか。ガイドラインを出すか |
| クレジット表記 | どこに、どう名前を出すか。表記の文言も決めておく |
このうち収益化とグッズは、あとから揉めやすい代表格です。「趣味で始めたつもりが、続けるうちに収益が出るようになった」というのはVtuberではごく普通に起きることで、最初に商用の話をしていないと、そのたびに交渉から始めることになります。先に「収益が出る可能性はあります」と伝えておくほうが、結果的にお互いの手間が減ります。
なお、ここで挙げたのは発注する側が押さえておくとよい一般的な考え方です。実際の契約内容は個別の事情で変わるため、事務所との契約が絡む場合や大きな取引では、弁護士など専門家に確認することをおすすめします。
絵師とモデラー、どちらを先に探すか
順番に唯一の正解はありませんが、後戻りが少ないのはモデラーを先に押さえる進め方です。モデラーには分け方の指定という形で、絵の作り方に対する要求があります。それを先に受け取ってから絵を発注すれば、描き直しが起きません。
逆に、どうしてもこの人に描いてほしいという絵師がいるなら、その人の予定を先に押さえるほうが優先度は高くなります。人気のある作家ほど先の予定が埋まっているからです。この場合は、絵師に「モデリング前提で描けるか」「分け方の指定に対応できるか」を早い段階で確認しておきます。
探す場所そのものについては、SNSで直接声をかける、クラウドソーシングを使う、制作会社に相談する、といった経路があり、それぞれ向き不向きがあります。進行の管理や権利の整理まで含めて任せたい場合、あるいは企業としてVtuberを立ち上げる場合は、窓口が一本化されている制作会社への相談が向いています。
進行でつまずきやすい場面
最後に、実際に多いつまずきを挙げておきます。どれも事前のひと言で防げるものばかりです。
| つまずき | なぜ起きるか | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| デビュー日に間に合わない | 絵の完成を待ってモデリングが始まるので、工程が直列につながる | モデリングの期間も含めて逆算し、余裕を見て相談する |
| 納品データがモデルに使えない | レイヤー分けの指定を渡していない | モデラーの指定を先に共有する |
| 差分が足りないと後で気づく | 配信を始める前に必要な表情が読めない | 追加をお願いする場合の進め方を最初に聞いておく |
| 収益化で確認が必要になる | 最初に商用利用の話をしていない | 可能性の段階で伝えておく |
| ラフの後で大きく直したくなる | キャラクター設定が固まらないまま進めた | 設定を文章にしてから依頼する |
| 似た絵柄の人に頼んだら違った | 作風の幅は作品数を見ないと分からない | その人の作品を複数見て、振れ幅ごと納得して選ぶ |
予算についても同じで、Vtuberの絵は用途と利用範囲によって条件が大きく変わります。見積もりの読み方は見積もりを決める条件をまとめた記事に、発注全体の流れはイラスト発注の完全ガイドに書きました。
決めておくほど、絵は早く形になる
Vtuberの絵の発注が難しく感じられるのは、決めることが多いからではなく、決めるべきことが何なのか分からないからです。項目さえ見えていれば、ひとつずつ埋めていくだけの作業になります。
そして、埋まっていない項目があること自体は問題ではありません。「ここは未定です」「相談したいです」と書いてあれば、相手はそこから一緒に考えられます。困るのは、決まっていないことが伝わっていない状態のほうです。
キャラクターは、うまくいけば何年も付き合う存在になります。最初に少し時間をかけて条件を並べておくことは、その先の何年かを軽くするための準備だと考えてください。
- 「立ち絵を1枚お願いします」では、なぜ足りないのですか?
- その一言では受けられるかどうかの判断がつかないからです。静止画としてそのまま配信画面に置くのか、パーツを動かしてモデルにするのか、3Dの資料として使うのかで、描く作業の中身がまったく変わります。静止画なら見えている部分だけを仕上げれば済みますが、動かすなら隠れている部分まで必要になります。
- 決まっていない項目があるときはどうすればいいですか?
- 「未定」と書いてください。空欄より何倍も親切に伝わります。困るのは決まっていないことではなく、決まっていないことが相手に見えないことです。
- 表情差分は何点くらい用意すればいいですか?
- 点数から決めると迷子になります。自分の配信で頻繁に起きることから逆算してください。雑談中心なら笑顔と平常の行き来が多いので口の開き方と目の細め方の幅が効き、ゲーム配信なら驚き・焦り・悔しさの振れ幅が要ります。使わない差分は切り替える機会がありません。
- 絵師とモデラー、どちらを先に探すべきですか?
- 後戻りが少ないのはモデラーを先に押さえる進め方です。モデラーには分け方の指定という形で絵の作り方への要求があるので、それを受け取ってから絵を発注すれば描き直しが起きません。ただし、どうしてもこの人に描いてほしい絵師がいるなら、その人の予定を先に押さえるほうが優先度は高くなります。
- デビュー日に間に合わない、という事故はなぜ起きますか?
- 絵の完成を待ってモデリングが始まるため、工程が直列につながるからです。モデリングの期間も含めて逆算し、余裕を見て相談してください。
※ 本記事に掲載しているイラストは、当メディアのために制作したオリジナル作品です。 記事中で言及する作品・キャラクター・商品名の著作権は各権利者に帰属します。
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