イラストMV・リリックビデオができるまで——全工程とクレジットの読み方

読了7分 推し絵のススメ 編集部
暗い部屋で光るモニターに向かう人物と、宙に浮かぶ透明なレイヤーの束

メインビジュアル:推し絵のススメ編集部(本記事のために制作したオリジナルイラスト)

■この記事の要点
  • 出発点は音源。曲を秒とタイムコードに翻訳した簡素な表が、以降の全工程の共通言語になる。
  • リリックビデオの絵コンテは、カット割りより「動きの脚本」に近い。カメラの寄り、レイヤーの流れ、歌詞の出入りを書く。
  • ディレクションが決めるのは3つ——視線の順番、密度の配分、同期のクセ(ビートに合わせるか半拍ずらすか)。
  • 通常のイラストは「完成した一枚」がゴールだが、MV用は分解された状態がゴール。分けた瞬間に「見えていなかった部分」の塗り足しが発生する。
  • 動かす方式は二系統。リグを組む方法(まばたき・呼吸・髪の揺れが得意で流用も効く)と、パーツを個別にアニメートする方法。
  • 歌詞は読ませるだけでなく「乗せる」もの。単位(一行/フレーズ/一文字)、可読時間、書体が質感を決める。
  • 素人目にも分かる完成度の差は、たいていコンポジット(色の統一・被写界深度・粒子やグロー)で生まれる。
  • エンドクレジットの並びは工程と対応している。クレジットが読めることは発注書が書けることとほぼ同じ。

好きな曲のミュージックビデオが、実写でもアニメでもなく「一枚の絵が静かに呼吸している」タイプだったとき。あの妙な気持ちよさは、どこから来ているのだろう。答えの多くは、完成映像ではなく制作の初期工程に埋まっている。

イラストMV・リリックビデオは、絵の上手い人がひとりで作るもの——と思われがちだ。実際には、絵コンテ、イラスト、リギング、モーション、タイポグラフィ、コンポジットという複数の職能が薄く重なってできている。この重なり方が分かると、発注する側に立ったとき何を誰に頼めばいいのかが一気に見えてくる。今回は工程を順に追いながら、最後にエンドクレジットを発注の設計図として読み直してみたい。

波形が細かく区切られ、その上に小さなカードが浮かぶ構成図風のネオン調イラスト
最初の作業は、曲を秒とタイムコードに翻訳すること

まず、曲を「秒」に分解する

すべての出発点は音源だ。イントロが何秒あるのか、Aメロは何小節で切り替わるのか。まずは曲を秒とタイムコードに翻訳する。ここで作られる簡素な表が、以降の全工程の共通言語になる。

この段階で決めておきたいのは、ざっくり三つ。

  • 尺の構造:フルサイズか、ショート版も同時納品するのか
  • 納品仕様:解像度、フレームレート、縦横比(縦横両方の納品も多い)
  • 絵の枚数:一枚絵で通すのか、場面転換のある複数カットか

「絵は何枚必要ですか」は、実は「予算をどこに配分しますか」と同義だ。曖昧なまま進むと、後工程で必ず跳ね返る。

絵コンテは「動きの脚本」

絵コンテと聞くとカット割りの絵を想像するが、リリックビデオのコンテはむしろ動きの脚本に近い。静止画一枚で押し切る構成なら、そこに描かれるのは「カメラがどう寄るか」「どのレイヤーがいつ流れるか」「歌詞がどこから入ってどこへ抜けるか」だ。

ディレクションが決める三つのこと

ディレクターの仕事を乱暴にまとめると、次の三つを決めることに集約される。視線の順番(最初にどこを見せ、次にどこへ誘導するか)、密度の配分(どこで情報を増やし、どこで引き算するか)、そして同期のクセ(ビートに合わせるのか、あえて半拍ずらすのか)。ここが決まらないままイラストを発注すると、絵は美しいのに動かすと退屈、という事故が起きる。

壁に並ぶ空白の絵コンテカードを光る矢印がつなぎ、影の手が一枚を指しているネオン調イラスト
コンテは絵の設計図ではなく、動きの脚本に近い

レイヤー分けから逆算するイラスト制作

ここがイラストMVの分岐点だ。通常のイラストは「完成した一枚」がゴールだが、MV用のイラストは分解された状態がゴールになる。髪、前髪、顔、瞳、服、腕、背景の遠景・中景・近景、光——動かしたいものの数だけレイヤーを割る。

そして分けた瞬間、必ず発生するのが「見えていなかった部分」だ。腕をどけたら胴体が空白、前髪を揺らしたら額が白い。隠れている部分まで描き足す塗り足しが発生する。通常のイラスト制作にはない工数で、見積もりで最も見落とされやすい項目でもある。

レイヤー分けは、絵の仕事というより「未来の自分への引き継ぎ書」を書く作業に近い。名前のついていないレイヤーは、三日後の誰にも読めない。

命名規則、統合の可否、余白の取り方。この辺りをイラストレーターとモーション担当が着手前に握れているかで、後半の速度は体感で倍ほど変わる。

人物の絵が髪や服、背景ごとに分解され、板状に浮かんで離れていくネオン調イラスト
MV用のイラストは「完成した一枚」ではなく「分解された状態」がゴール

モーション:リグを組むか、パーツを動かすか

分解された絵に動きを与える工程は、大きく二系統ある。ひとつは Live2D に代表される、パーツにメッシュとパラメータを設定してキャラクターそのものを動かせる状態に組み上げる方法。まばたき、呼吸、髪の揺れ、顔の向きといった有機的な動きが得意で、一度組めば別カットにも流用できる。

もうひとつは、コンポジットソフト上でパーツを個別にアニメートしていく方法。カメラワーク、視差、エフェクトとの組み合わせに強く、一発勝負の演出に向く。実務では両者を混ぜるのが普通で、「キャラはリグ、背景と光はソフト側」という分担が多い。

どちらを選ぶかは、絵柄でも予算でもなく再利用の予定があるかで決めるとブレにくい。単発のMVなのか、その後グッズやSNS用の短尺、配信用の立ち絵にも展開するのか。ここが読めていると、初期の設計がまるごと変わる。

リリックモーション:歌詞は読ませるより「乗せる」

リリックビデオの主役はもちろん歌詞だ。ただし歌詞のアニメーションは、読ませるためだけにあるわけではない。文字が現れて消えるタイミング、跳ね方、滲み方そのものが、曲の質感を伝える楽器のように働く。

  • 単位:一行ごとか、フレーズごとか、一文字ずつか。刻むほど手数は増え、情報は速く感じる
  • 可読時間:出現から消失まで、視聴者が実際に読み切れる秒数があるか
  • 書体:曲の温度に合っているか。その用途でライセンス上問題なく使えるか
  • 安全域:SNSのUIやサムネのトリミングで文字が切れないか

書体のライセンス確認は、納品後に発覚すると差し替えが最も痛い。誰が確認するのかを発注時にはっきりさせておきたい。

光るリボンや点が横方向にリズミカルに流れていく抽象的なネオン調イラスト
歌詞の動きは、読ませる装置であると同時に曲の質感を伝える楽器でもある

コンポジット:全部を同じ空気にする最後の30%

絵が動き、歌詞が動いた。それでもまだ完成ではない。各要素は別々の場所から来た素材の寄せ集めで、光の当たり方も色の温度もばらばらだ。

コンポジットは、それらを一つの空気の中に置き直す工程を指す。グレーディングで色を統一し、被写界深度で奥行きを作り、粒子やグロー、わずかなノイズで「同じレンズを通った」感触を与える。素人目にも分かる完成度の差は、たいていここで生まれる。

クレジットの読み方=発注書の書き方

ここまでの工程は、そのままエンドクレジットの並びと対応している。つまり、好きなMVのクレジットが読めることは、発注書が書けることとほぼ同じだ。

クレジット表記 実際に担っている仕事
Director / Video Direction 構成、絵コンテ、演出の意思決定
Illustration 原画。多くの場合レイヤー分けまで含む
Character Design 絵柄と設定の設計。原画と別人のことも多い
Rigging / Modeling パーツに動く仕組みを組み込む
Animation / Motion Graphics 実際の動き付け、カメラワーク
Lyric Motion / Typography 歌詞の見せ方、書体選定
Compositing / Editing 統合、色、書き出し

この表を横に置いて自分の案件を眺めると、「イラストだけ外注して動きは社内」なのか「一式まとめて任せたい」なのかを言語化できる。曖昧な「MVを作りたい」が、担当と工数の並んだ発注書に変わる瞬間だ。

イラストレーターとモーショングラファーの両方が在籍する体制——たとえば OSERU IMG. のクリエイター一覧のような座組み——を眺めてみると、一本のMVがどれだけの職能の重ね合わせでできているかが、より立体的に見えてくるはずだ。

複数の透明な面が一枚に重なり、その下に等間隔の光る帯が並ぶネオン調イラスト
統合された一本の映像と、その最後に流れる担当者の並び

発注前に決めておくと事故らない五項目

  1. 尺と納品形式:フル/ショート、解像度、縦横比、締切
  2. 絵の枚数と分解の粒度:何枚、どこまで分けるか、塗り足しは含むか
  3. 動きの方式:リグを組むのか、素材ベースで動かすのか
  4. 歌詞の扱い:全部出すのか一部か、書体は誰が決め、誰がライセンスを持つか
  5. 二次利用の範囲:SNS切り出し、グッズ、配信素材への展開はあるか

どれも決めるのに時間はかからない。それでも最初の打ち合わせで話せているかどうかが、後半の修正回数を静かに、しかし決定的に左右する。次にお気に入りのMVを見るときは、ぜひ最後まで再生してクレジットを眺めてみてほしい。あの数行は作り手の名簿であると同時に、あなたが次に書く発注書の目次でもある。

■よくある質問
イラストMVは何から始めるのですか?
音源を秒とタイムコードに分解するところからです。イントロが何秒あるのか、Aメロは何小節で切り替わるのか。ここで作る簡素な表が、以降の全工程の共通言語になります。
MV用のイラストは、通常のイラストと何が違いますか?
ゴールが違います。通常は「完成した一枚」ですが、MV用は分解された状態がゴールです。髪・前髪・顔・瞳・服・腕・背景の遠中近・光と、動かしたいものの数だけレイヤーを割ります。分けた瞬間に、腕をどけたら胴体が空白、前髪を揺らしたら額が白い、という塗り足しが必要になります。
絵を動かす方法にはどんな種類がありますか?
大きく二系統です。Live2D に代表される、パーツにメッシュとパラメータを設定してキャラクターそのものを動かせる状態に組む方法(有機的な動きが得意で別カットにも流用できる)と、コンポジットソフト上でパーツを個別にアニメートしていく方法です。
歌詞のアニメーションで気をつけることは?
刻む単位(一行ごと/フレーズごと/一文字ずつ)で手数と情報の速さが変わります。出現から消失までに視聴者が実際に読み切れる秒数があるか、書体が曲の温度に合っているかも見てください。歌詞は読ませるだけでなく、曲の質感を伝える楽器のように働きます。
発注前に決めておくことは何ですか?
5つです。尺と納品形式(フル/ショート、解像度、縦横比、締切)、絵の枚数と分解の粒度(塗り足しを含むか)、動きの方式(リグか素材ベースか)、歌詞の扱い(書体は誰が決め誰がライセンスを持つか)、二次利用の範囲(SNS切り出し、グッズ、配信素材)。

※ 本記事に掲載しているイラストは、当メディアのために制作したオリジナル作品です。 記事中で言及する作品・キャラクター・商品名の著作権は各権利者に帰属します。

OSERU IMG.

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