- イラストマップは正確な地図ではなく「案内の絵」。誰が、どこで、何のために見るのかを最初に決めると、描き方が決まる。
- 載せるスポットの一覧と優先順位は発注側が用意する。情報が固まらないまま描き始めると、配置のやり直しが起きやすい。
- どこまで正確に描き、どこをデフォルメするかの線引きは、ラフ(配置案)の段階で確認するのが効率的。
- 費用は描く範囲、スポットの数、描き込みの量、使う媒体と利用範囲などで大きく変わるため、条件を揃えて見積もりで確認する。
- 既存の地図を下敷きにする場合は元の地図の利用条件を確認し、店舗の入れ替わりに備えて更新しやすい形での納品も相談しておく。
イラストマップは「地図」ではなく「案内の絵」
観光パンフレットの見開きに描かれた町の地図、商店街の入り口に立つ案内板、大学のオープンキャンパスで配られる構内図、フェスやイベント会場のエリアマップ。こうしたイラストマップは、身近にありながら、いざ自分たちで作ろうとすると何から決めればいいのか迷いやすい仕事です。
理由は、イラストマップが地図とイラストのあいだにあるからです。地図として見ると「正確さ」が気になり、イラストとして見ると「絵柄」が気になる。けれど発注の出発点はそのどちらでもなく、その地図を見た人に何をしてほしいのかです。町を歩き回ってほしいのか、目的の建物に迷わず着いてほしいのか、会場の全体像をひと目でつかんでほしいのか。目的が決まると、正確に描くところとデフォルメするところ、載せる情報と省く情報が自然に決まっていきます。
この記事では、イラストマップの制作を外注するときに、発注する側が先に決めておくと話が早く進むことを実務の順に整理します。イラストの発注全般の流れはイラスト発注の完全ガイドに、依頼できる場所の選び方はイラストの依頼先の選び方にまとめています。ここでは地図ならではの論点に絞ります。
最初に決めるのは「誰が、どこで、何のために見るか」
同じ「町のイラストマップ」でも、使われる場面によって求められるものが変わります。代表的な用途と、それぞれで大事になる点を並べると次のようになります。
| 用途 | 見る人と場面 | 大事になること |
|---|---|---|
| 観光パンフレット・観光サイト | 旅行の前に家で、または現地で歩きながら | 行ってみたくなる雰囲気、名所の見つけやすさ、季節感 |
| 商店街・エリアの案内板 | 現地で立ち止まって数秒〜数十秒 | 現在地のわかりやすさ、遠目での読みやすさ、方角の正しさ |
| キャンパス・施設の構内図 | 初めて来た人が目的の建物を探す | 建物の見分けやすさ、入口の位置、名称の正確さ |
| イベント・フェスの会場マップ | 当日、人混みの中でスマートフォンや紙で | エリア分けの明快さ、トイレや出入口など必須情報の目立たせ方 |
| 会社案内・採用サイトの拠点紹介 | 会社に興味を持った人が画面で | 事業や雰囲気の伝わり方、ブランドの色との相性 |
この表で言いたいのは、用途によって「良い地図」の基準が変わるということです。観光パンフレットでは描き込みの多さが魅力になりますが、案内板では情報が多すぎると現在地が見つけにくくなります。依頼の最初に用途と見る場面を伝えるだけで、作家が提案できる描き方の幅は大きく変わります。
あわせて、どの媒体で使うかも最初に決めておきます。印刷物なのか、ウェブなのか、大きな看板なのか。サイズや縦横比が後から変わると、配置そのものを組み直すことになりやすいからです。複数の媒体で使う予定がある場合は、主に使う媒体を一つ決め、ほかは切り出しや調整で対応できるかを相談しておくと進めやすくなります。
正確さとデフォルメの線をどこで引くか
イラストマップの魅力は、思い切った省略と誇張にあります。目印になる建物を実際より大きく描く、関係の薄い路地を省く、遠くの山を画面の端に寄せて見せる。こうした工夫によって、正確な地図よりも直感的に場所がつかめる絵になります。
一方で、どこまで崩してよいかは用途によって変わります。現地で歩くための地図なら、道のつながりや曲がり角の順番は崩さないほうが安全です。雰囲気を伝えるための地図なら、距離感をかなり縮めても問題にならないことがあります。判断の目安として、次の点を発注側で決めておくと作家が迷いません。
- 方角を固定するか……北を上にするのか、見る人の立ち位置に合わせて回転させるのか
- 道のつながりを守るか……実際に歩いてたどれる必要があるかどうか
- 距離感をどこまで縮めるか……徒歩の所要時間などを別に書き添えるかどうか
- 何を大きく描くか……いちばん見つけてほしい場所はどこか
- 平面か、斜め上から見た鳥瞰か……立体的に描くほど雰囲気は出るが、裏側の情報は隠れやすい
この線引きは、言葉だけで決めきるのは難しいものです。そこで多くの場合、清書の前にラフ(配置案)の段階を設け、建物や道の位置関係を大まかに描いたものを確認します。絵柄の確認より先に、配置の確認を済ませておくのがイラストマップのコツです。配置が固まってから描き込みに入れば、後戻りが少なくて済みます。
載せる情報は、発注側が用意する
イラストマップで最も時間がかかりやすいのは、実は絵を描く工程ではなく、何を載せるかを決める工程です。掲載するお店や施設、名所、トイレや駐車場などの情報が固まらないまま描き始めると、途中で追加や削除が重なり、配置のやり直しにつながります。
掲載する情報の正しさは、発注する側が責任を持つのが一般的です。作家は地図の絵をつくる専門家であって、その土地の最新情報を把握しているわけではありません。依頼の前に、次のような資料を揃えておくと話が早く進みます。
- 掲載するスポットの一覧(正式名称、位置、ひとことの説明)
- スポットの優先順位(必ず大きく描く場所、名前だけ載せる場所)
- 位置関係がわかる元資料(どの地図を参考にするかは後述の権利の章を参照)
- 主要な建物や名所の写真(正面の形、色、特徴的な看板など)
- 入れたい文字情報(タイトル、凡例、注意書き、問い合わせ先)
現地の取材や写真撮影を作家に依頼したい場合は、それを作業範囲に含めるかどうかを最初に決めておきます。取材の有無は工程にも費用にも影響するため、後から追加すると調整が大きくなりがちです。依頼文の組み立て方はイラスト依頼のテンプレートと例文も参考になります。
費用が「条件で変わる」理由
イラストマップの費用を調べると、さまざまな金額が目に入ります。けれど地図の制作費は、一般的なイラスト以上に条件で大きく変わるため、一律の相場で考えるのは危険です。金額を左右する主な条件は次のとおりです。
| 条件 | 費用に影響する理由 |
|---|---|
| 描く範囲の広さ | 範囲が広いほど、描く建物や道の量が増える |
| スポットの数 | 一つひとつに形の調べものと描き込みが要る |
| 描き込みの密度 | 建物を記号で示すか、外観まで描き分けるかで作業量が変わる |
| 平面か鳥瞰か | 立体的な表現は、建物の向きや重なりの設計に手間がかかる |
| 文字入れ・凡例 | 作家が担当するか、デザイナーが別に担当するか |
| 取材・資料収集 | 現地取材や写真撮影を含めるかどうか |
| 使う媒体と利用範囲 | 印刷部数、ウェブ掲載、看板、グッズ化など、使い道が広いほど取り決めが増える |
| 修正の回数と更新 | 配置の確認回数や、将来の部分修正を含めるかどうか |
見積もりを比べるときは、これらの条件を書き出したうえで、複数の依頼先に同じ条件で依頼するのがコツです。条件が揃っていない見積もりは、金額だけ並べても比較になりません。イラスト全般の金額の考え方はイラスト依頼の料金の考え方で詳しく扱っています。
進め方——配置を先に固め、描き込みは後から
イラストマップ制作の一般的な流れは次のとおりです。依頼先によって呼び方や順番は多少違いますが、大きな骨組みは共通しています。
- ヒアリング……用途、見る人、媒体、サイズ、雰囲気、納期を共有する
- 資料の受け渡し……スポット一覧、優先順位、元資料、写真を渡す
- ラフ(配置案)……建物と道の位置関係、デフォルメの度合いを確認する
- 描き込み(清書)……決まった配置に沿って建物や風景を描いていく
- 文字入れ・凡例……名称や注意書きを入れ、読みやすさを確認する
- 最終確認と納品……情報の誤りがないかを発注側で確認し、データを受け取る
この流れで特に大事なのは、ラフの段階で情報の確認を終えておくことです。清書に入ってからスポットを追加すると、周りの建物を動かす必要が出て、描き直しの範囲が広がります。社内の関係部署や掲載先への確認が必要な場合は、ラフを共有するタイミングに合わせて回しておくと、後の工程が詰まりにくくなります。
期間も範囲や描き込みの量によって大きく変わるため、具体的な日数は依頼先と相談して決めてください。印刷やイベントの日付が決まっている場合は、そこから逆算して、確認にかかる日数も含めた余裕を持って依頼するのが安全です。
権利と更新——元にする地図と、あとから直す仕組み
イラストマップには、ほかのイラストにはない権利の論点があります。それは元にする地図です。位置関係を正しく描くために既存の地図を参考にすることは多いのですが、市販の地図や地図サービスの画面には、それぞれ権利や利用規約があります。下敷きにしてなぞるような使い方が許されているかどうかは、元の地図ごとに確認が必要です。国土地理院の地図を使う場合も、国土地理院が公開している利用手続きの案内を確認してください。どの資料を元にするのかは、発注側と作家のあいだで最初に共有しておきます。
もう一つは、掲載するお店や施設の名称・ロゴです。名称を載せるだけなのか、ロゴや看板のデザインまで描き込むのかで、確認が必要な範囲が変わることがあります。掲載先への連絡や了承の取り方は、発注側で方針を決めておくと進めやすくなります。
完成した地図の利用範囲も、ほかのイラストと同じように決めておきます。パンフレットだけで使うのか、ウェブや看板、グッズにも広げるのか。著作権の譲渡と利用の許諾の違いなど、基本的な考え方はイラストの著作権ガイドにまとめています。地図をグッズにする可能性があるなら、グッズ用のイラストを依頼するときの記事もあわせてご覧ください。
そして見落とされがちなのが更新です。町のお店は入れ替わり、施設は改修され、イベント会場の配置は毎年変わります。スポットや文字を別のレイヤーに分けたデータで受け取っておくと、部分的な差し替えがしやすくなります。将来の修正を誰が、どのような条件で行うのかも、最初の契約の段階で相談しておくと、数年後に困りません。
依頼する前のチェックリスト
最後に、イラストマップの制作を依頼する前に確認しておきたい項目をまとめます。
- 用途を決めたか……観光、案内板、構内図、イベント、会社紹介のどれか
- 見る人と場面を決めたか……事前に家で見るのか、現地で歩きながら見るのか
- 媒体とサイズを決めたか……主に使う媒体と縦横比
- 掲載スポットの一覧と優先順位を用意したか
- デフォルメの方針を決めたか……方角、道のつながり、距離感、大きく描く場所
- 元にする地図の利用条件を確認したか
- 取材や資料収集を作業範囲に含めるか決めたか
- 文字入れを誰が担当するか決めたか
- 利用範囲を書き出したか……印刷物、ウェブ、看板、グッズなど
- 更新の方法を相談したか……レイヤー分けしたデータ、将来の修正条件
イラストマップは、その土地や場所を初めて訪れる人にとっての入口です。よくできた一枚は、迷わせないだけでなく、まだ知らない場所へ足を向けさせる力を持っています。条件と情報が先に揃っていれば、作家はその枠の中で、最も歩きたくなる一枚を考えることに集中できます。
なお、ここで扱ったのは依頼する側が押さえておくとよい一般的な考え方です。地図の利用条件や契約、権利の取り決めについて判断に迷う場合は、専門家にご相談ください。
- イラストマップと普通の地図は何が違いますか?
- 普通の地図が位置や距離を正確に伝えることを目的にするのに対し、イラストマップは見る人に行きたい場所を見つけてもらい、その土地の雰囲気を伝えることを目的にします。そのため、目印になる建物を大きく描いたり、関係の薄い道を省いたりと、目的に合わせたデフォルメが入ります。
- イラストマップの費用はどのくらいかかりますか?
- 一律の相場で答えるのは難しく、描く範囲の広さ、載せるスポットの数、建物をどこまで描き込むか、平面か立体的な鳥瞰か、印刷物かウェブか、どの範囲で使うかといった条件で大きく変わります。条件を書き出したうえで、複数の依頼先に同じ条件で見積もりを取ると比べやすくなります。
- 掲載するお店や施設の情報は、イラストレーターが調べてくれますか?
- 依頼先によって対応が分かれますが、掲載する情報の正しさは発注側が責任を持つのが一般的です。掲載スポットの名称、位置、優先順位、参考になる写真などは発注側で用意し、作業範囲に現地取材や情報収集を含めるかどうかは最初に決めておくと行き違いが起きません。
- 既存の地図をなぞって描いてもらってもいいですか?
- 元にする地図の権利と利用条件によります。市販の地図や地図サービスの画面には、それぞれ権利や利用規約があります。国土地理院の地図を使う場合も、国土地理院が公開している利用手続きの案内を確認してください。判断に迷う場合は専門家への相談をおすすめします。
- お店が入れ替わったとき、地図を一部だけ直せますか?
- 納品データの形式と取り決め次第です。スポットや文字を別のレイヤーに分けたデータで受け取っておくと、部分的な差し替えがしやすくなります。将来の更新を誰がどの条件で行うのかも、最初の契約の段階で相談しておくと安心です。
※ 本記事に掲載しているイラストは、当メディアのために制作したオリジナル作品です。 記事中で言及する作品・キャラクター・商品名の著作権は各権利者に帰属します。
OSERU IMG.
この記事の内容を、実際の制作で相談できます
OSERU IMG. はイラストレーター・キャラクターデザイナー・モーショングラファーが所属する クリエイティブスタジオです。作風・実績から探して、そのまま相談できます。 「まだ決まっていない」段階のご相談も歓迎です。
SNSアイコンのイラストを依頼する——個人と法人で変わる、決めておくこと
SNSアイコンをイラストレーターに依頼するとき、個人で使うのか、法人・事業アカウントで使うのかによって決めておくことが変わります。丸く切り抜かれる前提の設計、必要なサイズとデータ形式、使ってよい範囲の取り決めまで、実務の順に整理しました。
イラストの著作権はどこまで移るのか——利用許諾と著作権譲渡のちがい
イラストを発注しても、著作権が自動的に発注側へ移るわけではありません。利用許諾と著作権譲渡は何が違うのか、譲渡しても作家に残る権利とは何か、契約書で確認すべき項目はどこかを、発注する側の視点で整理しました。場面別の目安とトラブルになりやすい3つの場面もあわせて紹介します。
イラスト発注の完全ガイド——目的の言語化から利用範囲・修正回数・予算感まで
「思ってたのと違う」はなぜ起きるのか。イラストを仕事で発注するときの実務ガイド。目的の言語化、用途とサイズ、参考の渡し方、著作権と使用許諾の違い、修正回数、予算感、マネジメント経由と直依頼の差までまとめました。
